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たった一つさえも守れなかった。
約束は果たすべきもので、破棄するものではない。
そんな事は当たり前で、当たり前なはずなのに約束を果たす事が難しい事がある。夢を叶えるということは、多かれ少なかれ何かを犠牲にしている。

感情は死なず
心は潰れない

そんな当たり前な事なのに、この胸が苦しくなるほどの腹立たしさはなんだろうか?…最後に会った君は、弱弱しいけれど、笑った。
笑うというのは、実は体力が居る事で、俺は彼女が微かだけれども微笑んだ事に安堵して、そして彼女のその細い背中を見つめ見送った。

早咲きの桜が、春の淡い空色に向かい綻んでいた。

詩人になったとしたら、きっと俺は君の事をその桜に例えるだろう。
儚いようで、でも誇らしげにたわわに咲く桜。
やがて散るから花は美しい。

やがて命が尽きるから、人は誰かを愛し、そして愛を残していく。
終わりの無いものはなく、いつかは滅び行くから、人は永遠という言葉を作ったのだと思う。

夜は明ける
季節は廻る
そして、人の感情もやがては移り行く…

…昔から人はないものねだりだったんだ。
それは人の性であり欲求で、普通の人間なら一度ぐらい願うのだろう。

君よ永遠に……

この手はいつから君に触れていない?
君はいつ、この手を離した?

君が手にしていたそのブーケは、誰を祝福するために空へと投げた?

ライスシャワーは泣けない俺の代わりに、彼女へと降り注ぐ。
その微笑みはもう、俺のものではなく隣で幸せそうな人のものとになってしまったんだね。
俺は上着のポケットにしまっていた、ある物を取り出した。俺の手の中ではあまりに華奢で握りつぶせるんじゃないかと思った。俺はもう一度彼女を見た。

君よ永遠に…っ!

淡い空の下、桜はたわわに咲き誇り、新郎新婦を祝福するかの様だった。
だから俺は、その桜に向かって思いっきり投げた。

最後に目に映ったのは、彼女の誕生石の輝いた光。涙だった。
そして音もなく消え去った涙は、きっと桜に囲まれ幸せなのかもしれない。

俺は夢を掴んだ。
人は俺を覇者だと囃し立てる。

けれど俺は、手にする事のできなかった輝きをただ呆然と眺める事しかできない男なんだ。

風が吹き、彼女が花吹雪をまとった。
そして見も知らぬ傍らの男性が彼女にそっと触れた。

俺はそっときびすを返しその場から立ち去った。

見上げた空は何の変哲も無い春の空で、その淡さが涙色にも見えた。
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